『アイアンマン』

『アイアンマン』 監督:ジョン・ファヴロー

なぜアイアンマンはあんなにもシンプルにヒーローでいられるんだろうか。『アイアンマン』の主人公トニー・スタークは、いわば最新型のび太であった。なぜなら部屋から行ける場所だけが彼の世界だからだ。彼は、部屋の中の世界から繋がる「外」しか関知しない。いや、自分のつくった世界は「そこまで」しかないのだ。「関わり」はその先の世界を彼に無断で勝手に拡げたりはしない。例えば彼を救って命を落とした医師についてその後一切触れないし、「自社兵器が悪用されるから」「部下がいらんことするから」彼は英雄的行動を取ったに過ぎない。彼の行動は実にシンプルである。つまり、「自分がつくった世界だから、自分で直す」のだ。
トニー・スタークが見ていないもの、彼が信じていないものは、映画の中にひとつも置いてはいない。だからこそ『アイアンマン』は近年稀にみるほどにあっけらかんとヒーローであることを背負えていたし、その軽快さは、スタークの意志とは一切関係なく、頑丈で強固な思想性を持ちえたのだ。