『ウォンテッド』

ウォンテッド [DVD]

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『ウォンテッド』 監督:ティムール・ベクマンベトフ

『ウォンテッド』のラストは、物語の不信によって、世界はお前に関係しないということを、世界は接点でしかないことを知る。運命は絶対だけど、何らかの形であれ己は運命に介入できる、その主体性を放棄したところに着いて、物語ははじめて映画を背負えることができるんではないか。ここでもまたひとつ決別が生まれたのだ。「自分を知りたい」という願望は、すなわち自分で自分を裏切り続けることであると、この映画ははっきりと言っているのだ。主人公の前にあらわれる物語は、押したら倒れるような薄情さで、彼の運命を証明してはくれないだろう。だがたとえ前から真実が現れたとしても、主人公には、俺には、それを信じることができるのだろうか。主人公は自分の才能に目覚めてからも「自分がわからない」と言った。主人公は2度ほど裏切られる。ひとつはサミュエル・L・ジャクソンの謀略。もうひとつはヒロインとの決別だ。アンジェリーナ・ジョリー自死は、主人公と彼女の信じるものが、一度も、少しも、交わっていなかったことを告げる。そしてそれは、彼が依った親子の物語もまた何ら証明されるものではない、と思い知ることに等しい。
ファミコンのカセット取りかえるみてーに軽薄に、いつか自分は自分の物語もまた裏切るだろう。