『オブリビオン』

オブリビオン』 監督:ジョセフ・コシンスキー 出演:トム・クルーズ モーガン・フリーマン オルガ・キュリレンコ


(ネタバレ)

ジャック(トム・クルーズ)はジュリア(オルガ・キュリレンコ)を見ていた。ジュリアもまたジャックを見ていたのだろう。そしてヴィクトリア(アンドレア・ライズブロー)も。映画を観る者は、ジャックと同じように冒頭以前の記憶を知ることはできない。映画を観ることは、彼と同じようにかつてに出会い、顧みていくこと。誰かが何を見ていたのかは知ることはできないが、ただひとつ言えるのは、クローンとして目覚めたそのときにヴィクトリアはジャックを確かに見たのだろうということ。(冒頭の説明で、記憶を消されたとあったが、おそらくクローンとして目覚めてからの時間が5年しかないのだろう。)
「テット」は捕獲した人間をもとにクローンを製造し地球に派遣する。クローン製造の目的は、地球の監視であり、海水を吸い上げる巨大プラントを「異星人スカヴ」の残党(本当は人類の生き残り)から守ることであった。フライトレコーダーで、ジャックは過去を再生する。そこで、(調査船での)かつてのヴィクトリアの視線に、映画を観る者も気づくのだ。いや確かめようとしたのか。いつかの彼女もジャックを見ていたのだと。観る者は再び冒頭に立ち返る。彼女を想う。ジャックがジュリアを見ていたように、ヴィクトリアはジャックを見ていたのだということ。彼女は、ジャックよりずっと先に、自らの呪われた運命に気づいていたのかもしれない。
フライトレコーダー。ジャックは過去を顧みる。地球が破壊される以前、彼が乗る調査船は土星に向かっていた。テットに遭遇し、ジャックとヴィクトリアは捕らわれ、睡眠状態にいるジュリアは船から切り離されることでテットから逃れるも宇宙を漂うこととなる。そこは自分を失ってしまった場所、かつての軌道上に、時間や存在を超えて再び乗ろうとすること。いつかの過去と乗り合わせる感覚。
かつての自分が解き放った(切り離した)夢の、その軌道上に、過去を失った現在の自分が再び遭遇し、それを(半信半疑ながらも)掴みとることの奇跡。いや奇跡というのか。それは神が生んだ「自分」の誰かがいずれどこかで成し遂げること。この「自分」が死んでも、誰かがその先を歩むことの希望。ラストにフライトレコーダーはいらない。